<全日本:東京大会>◇92年8月22日◇東京・日本武道館

 三沢光晴(30)が、ついに3冠をとった。22日、日本武道館で行われた全日本東京大会で3冠4度目の挑戦の三沢が、王者スタン・ハンセン(42)を撃破。両者フラフラの状態から最後にエルボーをたたき込み、24分4秒、体固めでフォールした。左肩の故障を乗り越え、執念でつかんだ勝利だ。

 ◆全日本プロレス「3冠ヘビー級選手権」60分1本勝負

 三沢{体固め 24分4秒}ハンセン

 三沢はすべての力を右ひじに込めた。カウンターのエルボーがハンセンの顔面に当たる。倒れた。三沢も力尽きた。気づくと、ハンセンはまだダウンしている。うつぶせの状態を戻し、フォールを取った。かえされたらもう戦う力は残っていない。カウント3を、意識が薄れる中で聞いた。観衆の大声援が遠くで聞こえた。

 今度は負けられない、と思っていた。今まで3度もチャンスをもらった。いつもあと一歩で敗れている。特にハンセンには2度挑戦し、ラリアットの前に沈んだ。「何も考えないことにした。作戦を立てて通じる相手じゃない」が、過去の対戦から得た経験だった。

 あえてラリアット封じには出なかった。相手の左腕をつぶしても、威力は変わらない。だが、ハンセンは負傷した左肩を集中して攻めてくる。アームロックから十字固め。その度に苦痛で顔をゆがめた。7月21日の試合中に負傷した左肩にはまだ痛みがあった。「もう大丈夫だ」とは言ったが、ふだんの生活には支障はないが、攻撃されれば別だ。感覚がだんだんとマヒしていった。

 「自分との闘いがすごかった」という。「負けてしまおうか。そうすれば楽になる」。心の中で何度つぶやいたか分からない。過去3度はそれに負けた。だが、今回は違う。「これが最後の挑戦だ」と自分に言い聞かせていた。タイガーマスクの覆面を脱ぎ捨て、2年3カ月。超世代軍のエースとして活躍し、ジャンボ鶴田に真っ向から向かっていった。4度の挑戦で一度もタイトルが取れなければ、これまでやったことがすべて無になりそうな気がしていた。

 「ハンセンはやっぱり強いよ」と控室で、ホッと息をついた。笑おうとしても笑えないほど疲れた。超世代軍の仲間の小橋と川田がうれしそうに祝いのビールをかけてくる。「顔が痛いよ」。三沢が照れくさそうに、笑顔を初めて見せた。【三上広隆】

(92年8月23日付紙面から)

 [2009年6月14日1時37分]

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