“演歌の歌姫”坂本冬美が、昭和歌謡やニュー・ミュージックの名曲を歌ったカバー・アルバムをリリースした。デビュー以来23年間、演歌の王道を行く一方で様々なジャンルの歌にも挑戦して、表現者としてのキャパシティを広げてきた彼女だが、今回は自らのルーツを振り返るべく、原点というべき名曲を、新しいアレンジで歌う。名曲の魅力を再確認させるとともに、歌手坂本冬美に新しい魅力を作り出している名企画盤になっている。MUSICSHELF演歌歌手初登場です! 

--今回の企画の経緯から聞かせてください。今年1月にリリースされたシングル「アジアの海賊」のカップリング「また君に恋してる」の成功が大きいのでしょうか。

100%それですね。今年1月に「アジアの海賊」という、中村あゆみさんに作詞作曲していただいた曲をシングルで発売したんです。そのカップリングに「また君に恋してる」という曲を入れたんですね。これはCM用に作られた曲で、普通CMソングというのは、テレビで流れるフレーズだけ歌えばいいんですが、いい曲だったのでフルでレコーディングすることになったんです。さらに、それをシングルのカップリングとして収録することになって、リリースしたら、配信で評判になったんです。演歌の場合、まだ配信が弱いんですが、「アジアの海賊」の反応がよかったので、喜んでいたら、それを越える勢いで「また君に恋してる」が伸びていったんです。そういう反応を見て、カバー・アルバムの旬は過ぎているかもしれないけれども、今私が歌う“大人のラブ・ソング”を集めたアルバムを作ってみようよってことになったんです。

--これまでにもHISでの活動や「銃爪」(世良公則とツイスト)のカバーなど、演歌以外のジャンルでも活躍されてきた坂本さんですが、「アジアの海賊」と「また君に恋してる」のヒットは、新しい展開を促したわけですね。

HISは同じレコード会社だった(忌野)清志郎さんに気に入っていただいたのが始まりだったんですけど、あの頃はまだデビュー4年目くらいでしたから、今振り返れば自分では訳が分からないままにレコーディングしていたように思います。「銃爪」はCMソングで、回りの言うとおりに歌っていた部分が大きかったです。でも今回のアルバムは、子供の頃や青春時代に聞いて口ずさんでいた曲ばかりなので、仕事というよりは素の自分に近い感じで歌うことができたと思いますね。

--選曲はどのように行ったのでしょうか。

「また君に恋してる」が大人のラブ・ソングということから、大人が聞いて懐かしく思ったり、淡い青春時代を回想したりできる曲を選びました。年齢層でいうと40代から60代くらい。若くて30代くらいをターゲットに曲を選んでいきました。いい歌がたくさんあるので、まず30曲に絞って、それをすべて1コーラスずつ歌ってみたんです。それで自分の声に合う、あるいはコンセプトにしっかり合ったものを選んでいきました。選曲の際には、レコード会社のスタッフの方からもリクエストをいただいたんです。しかも社長さんからメールをいただいて。とても嬉しかったですね。

--収録曲のユーミン、沢田知可子、松山千春、サザン等々という流れが豪華ですね。

いい曲を選んでいったらメジャーなものが多くなっていったんです。でも、そういう曲は歌ってらっしゃる方のパワーがすごいし、ご本人のイメージが強いから、カバーするのは難しいんです。なので、作戦を練りまして(笑)、イントロを聞いても何の歌か分からないようにしようと。

--どの曲もアレンジが素晴らしいですね。曲はもちろん、オリジナル・アーティストへの思い入れも強いのではないですか。

そうですね。サザンや松山千春さんの曲は自分の青春時代を思い出しますし、当時がオーバーラップしますね。私は子供の頃から演歌が好きで、同級生がピンク・レディーやキャンディーズで盛り上がっているのに、私は石川さゆりさんが大好きだったんです。私が初めて買ったレコードは石川さゆりさんの「津軽海峡冬景色」で、そのころから演歌歌手になりたいと思っていたんです。それで、中学生になって、周りが松田聖子さんや中森明菜さんのファンになっていても、私は下敷きに石川さゆりさんの写真の切抜きを入れていたりしていたんです(笑)。そういうように、演歌しか知らなかったんですが、初恋の人からサザンオールスターズを聞かされたとき、ものすごい衝撃を受けたんです。最初は良さが分からなかったんですが、聞いていくうちに桑田さんの声とか歌唱力とかに演歌とは違うこぶしを見つけて、ほかにも表現力やメロディとか、あまりに素晴らしくてすべてにはまってしまいました。カルチャー・ショックといってよかったですね。

--当時は、アイドル歌謡やロック系、演歌、歌謡曲とかいうジャンルの垣根はあまりなかったですよね。子供でも普通に石川さゆりさんや五木ひろしさんの曲をヒット曲として聞いていました。例えば、「ザ・ベスト・テン」なんかで、すべてのジャンルが同じように紹介されても違和感なかったですもんね。

そうですよね。私も石川さゆりさんのファンでしたが、普通に松田聖子さんやたのきんトリオも好きでしたからね。今はいろんなジャンルが細分化してしまっていると思いますね。

--このアルバムでは、そんなジャンルの垣根を横断するように、数々の名曲がジャズやクラシック、AORなどにアレンジがされています。

例えば「あの日にかえりたい」は、私なりに歌ってみたんだけど、最初はボサノバのリズムに合わせてうまく歌うことができなかったんです。演歌をずっと歌ってきていると、感情を入れすぎて、熱唱したくなるところがあるんですね。でも、ボサノバはどこか抑え気味で、気だるさみたいなものを出さなければならない。リズムに乗り遅れてはいけないけど、後乗りみたいな(笑)。「時の過ぎゆくままに」もそうでしたね。ディレクターからは「このアルバムは皆さんに何度も聞いていただいて、心地よくなれるものにしたいので、なるべく熱唱はしないでください。感情を入れすぎないでください」って言われていましたね(笑)。

--苦労も多かったんですね。

いちばん違うのはこぶしですね。あと、自然に演歌の“ため”みたいなものが出てしまいまして。それがあってもいい曲もあるんですが、少し抑えた方がいいのもあって。なので、自分では物足りなく感じることもあったのですけど、「それくらいでちょうどいいよ」って言われて。でも、今回のレコーディングは自分の体を通して響いてくる声を感じながら歌うことができたんです。テレビやコンサートのときは、モニターから直に返ってくる声を聞いているので、ついつい声が大きくなってしまうんです。でも今回、ヘッドフォンから聞こえてくる自分の声は、心地よくて、気持ちよく歌えたんです。大勢のお客さんの前で熱唱するのとは違う意味で、音を楽しむという原点に戻れたような気がします。

--レコーディングは具体的にはどのように行われたんですか。通常の演歌の新曲のレコーディングと違ったところがありましたか。

久々のアルバム制作で、まして今回は演歌のレコーディングではないので、作りながらもワクワクするところがありましたね。全体的な流れは、ディレクターしか分かっていなかったので、自分でも上がりの予測が付かないままレコーディングしていた感じでした。全部歌い終わって全体像が分かったんです。

--いろんなスタイルのアレンジの中で、「恋しくて」「あの日に帰りたい」「夏をあきらめて」のジャズへのアプローチ、「恋」「大阪で生まれた女」のクラシックへのアプローチが素晴らしいです。

初めてアレンジを聞いたときにはゾクゾクしました。今回のアルバムの中で、私がどうしても歌いたかった曲が「大阪で生まれた女 」だったんです。この歌のカッコよさやBOROさんの歌う姿に憧れていて、デビュー当時からステージで歌わせてもらったりしていました。ただ、あのようなアレンジになるとは思っていなかったので(笑)、最初はちょっと驚いたんですが、いざ歌ってみると曲のパワーに導かれて、感情を入れることができました。 徐々に気持ちが高まっていくようにできているんですね。不思議でした。

--一方でポップスを演歌的に聞かせる曲もありますね。「時の過ぎ行くままに」なんかが該当すると思うのですが。

これは本当に大好きな曲なので、どうしても感情が入ってしまうんですよ。ディレクターには、特に“カ行”を抑えてくれと言われて歌ったんです。そういう意味では、何度も歌いなおした曲ですね。歌って改めて思ったんですが、沢田研二さんは本当にすごい歌唱力を持っている方ですね。オリジナルを聞くと、私には回せないこぶしが入っているんですよ。何度やっても、絶対に真似できないんです。最後のほうの「背中合わせる~♪」というところなんですけどね(と言って歌ってみせる)。

--そうなんですね。では、歌詞の面ではいかがですか。歌ってみて、魅力を再発見した曲はありましたか。

「恋」がいちばんオーバーラップしたというか。これは松山千春さんが作った“おんな歌”なんですが、よくここまで女性の気持ちが分かるなと思いました。この曲に歌われていることは、女性なら誰でもきっと同じ気持ちになったことあると思うんですよ。だから、かなり感情移入してしまいましたね。学生の頃に聞いていたときには、いい歌とは思っていても、ここまで深くは、意味とか分かりませんでした。この歳になって歌ってみて、やっぱり深いなあと。

--「会いたい」は、かなり重い内容ですよね。

これは逆に感情を乗せないで、物語を語るように歌ったほうがいいんじゃないかと思いました。私自身、最愛の父親を突然失ったつらい経験がありますので、どうしても気持ちが高まって歌に感情が入りすぎてしまうので、歌の主人公になりきるんじゃなくて、どこかで客観的に見て伝えた方がいいんじゃないかという気持ちで唄いました。

--昭和の名曲を歌ってみて、いまの楽曲と違うと感じたところはありますか。

昔の曲はストレートな言葉で伝えるだけではなく、その裏に隠れている意味が感じられるんです。伝えたいことが100%書かれているわけではないんですね。あとは聞き手が、自分の気持ちをそこに乗せてくださいという、隙間のようなものを残してくれているような気がします。それで、多くの名曲を歌ってみて改めて思うのは、何十年経っても歌いたくなるような歌がたくさんあった時代なんだなとしみじみ思いますね。だからこそ、今の私たちもそういう曲を次の時代に残る曲を作っていかなきゃいけないんだなって思いますね。こういった曲を歌い継ぐことは大事だけど、これから歌い継がれる曲を作ることも大事なんだなと。

--個人的な感想として、このアルバムを作ってみていかがでしたか。

私は演歌歌手でデビューして23年間、なかには「夜桜お七」のような斬新な曲もありますけども、本当にドが付く演歌を歌ってきたんですね。だから、まさかこのようなアルバムを出すとは、夢にも思っていませんでした。でも今改めて振り返ってみたとき、清志郎さんとの出会いがあったことで、自然な流れとしてここに辿りついたのかなって感じていますね。清志郎さんが他のジャンルへの挑戦を促してくれたというか。だからとても感謝していますね。

--最後にジャケットの話も伺いたいのですが、今回かなりカジュアルな感じですね。ファンの方は驚かれるでしょうね。

洋装のジャケットはありますけど、ここまでラフな感じはないですね。でも撮影のときは着せ替え人形状態でした(笑)。「アジアの海賊」を出したとき、若いファンの方から「ジーパンとかで歌って」と言われたことがあったんです。「それはまずないでしょう!」って今年の初めに言ったばっかりなんですよ(笑)。なのに、こんなことになってしまって…。でも、いま言ったように、無理やりこうなったのではなく、自然の流れなので。コンサートでもこれまでは着物やドレスでしたけど、アルバムから3曲ピックアップして歌うことになったので、このスタイルでステージに立ってみようかなと。ご年配の方がどう思われるか心配なんですけど。

--でも「アジアの海賊」と「また君に恋してる」が配信という新しいメディアで評判になって、今回のカバー・アルバムでさらに新しい坂本冬美さんが注目されることは、本業の活動である演歌の方にも、今後かなりプラスになるのではないですか。

まさにそうなんですよ。再来年がデビュー25周年になりますので、そこは王道を行かないといけないと思っているんです。今まで以上にいい歌を歌っていかなければと思っています。
<インタビュー・文 / 竹部吉晃>


Singer“坂本冬美”初の試み
ラブ・ソング カバー・ベストアルバム 『Love Songs 
~また君に恋してる~』
2009.10.7 ON SALE!
EMI MUSIC JAPAN
TOCT-26891 / ¥3,000(tax in.)
 

収録曲
1.また君に恋してる
“いいちこ日田全麹”TVCM曲
2.恋しくて
3.あの日にかえりたい
4.会いたい
5.言葉にできない
6.恋
7.夏をあきらめて
8.シルエットロマンス
9.片想い
10.なごり雪
11.時の過ぎゆくままに
12.大阪で生まれた女

Bonus track:また君に恋してる
duet with ビリー・バンバン


坂本冬美
1986年、NHK「勝ち抜き歌謡天国」(和歌山大会)で名人となり、審査員・猪俣公章氏に認められ、86年4月上京。1987年、19歳のときに「あばれ太鼓」でデビュー。
デビューより23年、「夜桜お七」など数多くの名曲を発表。
Singer“坂本冬美”初の試みとして、ラブ・ソング カバー・ベストアルバム『Love Songs~また君に恋してる~』を10/7にリリースした。

オフィシャルHP
http://www.fuyumi-fc.com/index.shtml

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