「歌も料理も、もっとおいしいことないかな、楽しいことないかな、と工夫しながら作っていくのは一緒です」(東京都内で)=増田教三撮影
娘のため毎年手作り

 歌手にとって、年の瀬はかき入れ時だ。今年もディナーショーや歌番組の出演など予定が続いている。そんな年末の押し迫ったころ、時間をやりくりして、毎年手作りしているのが、黒豆だ。

 近所のスーパーで豆を買って、両手鍋に入れる。あくを取り、一晩置いた後、弱火で半日コトコト煮込んでいく。

 「私流の料理にするポイントは黒砂糖を使うこと。甘さがくどくなく、デザート感覚で食べられます」

 さらに千切りにしたショウガも一緒に煮る。香りが良く、煮汁を飲めば、のどの調子が良くなると、気に入っているという。

 14歳でアイドルとしてデビューした。19歳の時に「津軽海峡・冬景色」が大ヒットし、演歌歌手として歩み始める。23歳で結婚したが、歌手の仕事は続けた。

 仕事ばかりで、それまでほとんど料理をしたことがなかったが、「仕事をしているから料理ができないというのはいや」と夫の実家で料理を教わった。年末に出すおせち料理の作り方も一通りそこで習った。そのなかの一品が黒豆だった。

 娘をもうけたが、30歳で離婚。歌をうたい続けながら、一人で子育てをしてきた。「子どものために料理を作りますが、基本的には『働くお母さんのごはん』。普段は時間勝負で手早く作れるものになります」。特に忙しい年末も同様で、頑張って作っていたおせち料理の数も減ってしまった。

 だが、黒豆だけは別だ。「いろんなおせち料理のなかでお正月を一番感じる食べ物だったから」。幼稚園の先生をしていた母親は栄養士の資格も持つ料理上手。子どものころに作ってくれていた母親の味の黒豆の思い出もよみがえってきた。「当時は甘すぎたり、豆にシワが寄っていたりして、あまり好きではありませんでした。それでもあの味を思い出します。母親とは食べ物を通してつながっているんだな、と痛感します」

 この時期の自宅での自分の服装を「くれぼろ」と呼ぶ。「大掃除したり、おせちを作ったりするので動きやすいかっこうがいい」と暮れに「ぼろ」の普段着で過ごすからだ。でも、一歩外に出ると、「歌手・石川さゆり」に変身する。「マイクを持つ手から、煮物のにおいを感じることもあります。テレビを見ている人にはわからないでしょうけど」

 季節を大切にする生活を送るように心がけているが、中でもお正月は特別な区切りだと思っている。「たいしたことではないのですが、新しい下着とタオルを出して使います。そして、食卓には黒豆。ことの始まりを大事にしたいと思うんです」

 21歳になる娘からは「友だちにあげる約束しちゃった。たくさん作ってね」と言われている。言葉だけでなく、自分も食べもので娘とつながっていることを幸せに感じながら、今年も豆を煮るつもりだ。(崎長敬志)



 いしかわ・さゆり 1958年、熊本県生まれ。73年にデビューし、「津軽海峡・冬景色」「天城越え」などヒット曲多数。10月に新曲「居酒屋『花いちもんめ』」を発売した。
(2005年12月6日 読売新聞)

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